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移住「お試し」で納得 短期滞在で人間関係や気候体験

都会から地方への移住を希望するシニアは増えるばかり。だが「田舎暮らしに憧れて」といった漠然とした理由で移住しても、地元住民との価値観の違いに悩み、挫折する人も少なくない。そんな移住のミスマッチを防ごうと、短期滞在の「お試し移住」を用意する地域が増えている。賢く利用して納得のいく第二の人生を送りたい。

「2段階移住を利用し、地元の人との関係がうまくいった」。今年4月末に早期退職し、東京都内の自宅も売却して妻と高知市に移住した三木恭路さん(51)は笑顔で話す。

2段階移住とは高知市のお試し移住支援制度。利用者は同市にまず滞在する。市を拠点に高知県内で自分に合った場所を見つけてもらう試みだ。市は家賃1カ月分や引っ越し費用などを上限20万円で補助。農業を志す三木さんは現在、ほどほど都会の高知市で田舎暮らしへのウオーミングアップをしつつ、2020年春に2段階目の移住をする。

土佐市の農園でピーマンの栽培を学ぶ三木さんは言う。「高知市の移住担当者は県内自治体とパイプがある。市の紹介があると各地の役所も農家も私の話を前向きに聞いてくれる」。地方は耕作放棄地が目立つ。それでも所有者にとっては先祖代々の土地だ。見知らぬ人にすぐ貸し出す人はまずいないという。「そこで役立つのが自治体の信用力」と三木さんは語る。

都会からの移住者にとって関門は人間関係だ。田舎の人々は遠慮なく住まいに入ってくることがある。道路の草むしりをするのも地域の暗黙の了解だ。こうした風習に戸惑い、移住に失敗したシニアも多い。

 

気候にも気をつけたい。東京都調布市に住む女性(53)は、夫が定年後に埼玉県秩父市に移住し、そば店を開きたいという提案に悩む。今年の正月、家族で秩父の温泉に出かけたところ、予想外の寒さに震え上がった。その頃、東京は温暖で、「東京から近い秩父も同じ」と思ったそうだ。「腰痛に響く寒い所は避けたい」と打ち明ける。

秩父市は17年7月、無料で3~7日間のお試し居住ができる戸建てを用意した。希望者は市の移住相談センターで面談。移住を検討していることを確認できれば、お試し移住が可能になる。最近は東京からの利用が多いという。

センターの担当者は「秩父の気候は東京と違う。秩父への移住は農業などで自然と触れ合いたい男性が多い。お試しで女性にも納得のいく移住をしてもらいたい」と説明する。8月末までに68組・189人の利用があり、このうち8組・13人が正式に移住した。

お試し移住を支援するのは自治体だけではない。八ケ岳を望む山梨県北杜市清里でリゾート施設「萌木(もえぎ)の村」を運営する萌木の村は新規スタッフの募集で1カ月の短期から働けるように改めた。お試し期間中の仕事を提供するのが狙いだ。舩木上次社長(70)は「お試し移住を経て、清里をついの住み家にした人たちを今まで見てきたが、いずれも自分たちの幸福だけでなく、街の発展に協力してくれる人ばかりだった」と話す。

7年前に東京から移り、その2年後に自宅を買って正式移住した多田朱利さん(48)もその一人。CG(コンピューターグラフィックス)アーティストの多田さんの主な仕事は建設関連のCGだが、萌木の村の地域イベントでプロジェクションマッピングの仕事もほぼ無償で請け負う。

多田さんは「清里の開拓に尽力した(米国人宣教師の)ポール・ラッシュの精神『ベストを尽くせ、そして一流であれ』に共感する。舩木さん以外にもその精神を受け継ぐ地元住民が多い。そんな人たちと街づくりに関わりたい」と語る。お試し移住は移り住む側と受け入れる側の双方にメリットがありそうだ。

(保田井建氏)