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瀬戸芸秋会期 アートの季節、海や国越え 文化の風

現代アートの祭典「瀬戸内国際芸術祭2019」の秋会期が、瀬戸内の島々で始まった。会場として新たに香川県西部の個性的な4島が加わり、アジアのアーティストが多数参加。海を越え、世界に思いをはせるような作品が目白押しだ。

■広い海=「自由」

観音寺港から定期船に揺られ25分ほど。いりこ生産が盛んな伊吹島香川県観音寺市)に着く。牧歌的な雰囲気が漂う集落の空き家で、物々しい彫刻やウオールアートが目を引く。インドネシアの作家、エコ・ヌグロホによる「壁」だ。

独房のように仕切った壁に、デモ隊を思わせる民衆。そのTシャツには「自由とは……」で始まる英文が書かれている。「現在の国際状況やインドネシアの状況を表現した」という。問いかけるのは「精神的な壁を作ることで、他者と自分を分け隔ててしまう状況が世界中で起こっているのではないか」ということだ。

部屋の窓からは、広い海と空を望む。閉塞感ある空間にあって、自由を象徴するような風景だ。「自分で作った壁を越えたとき、初めて精神的な自由が見つかるのではないか。それぞれの立場でじっくり考えてもらいたい」(エコ)

日本初の海員学校があった粟島(同県三豊市)の「粟島芸術家村」ではインドの少数民族、ワルリー族のマユール・ワイェダが洞窟のような部屋を作り、古代から伝わる巨大な壁画を描いた。「我々の民族と生き物がどのように生きてきたか、人類史の冒険を表現した」とマユールは話す。

マユール・ワイェダが手掛けたインド少数民族に伝わる壁画(粟島)

マユール・ワイェダが手掛けたインド少数民族に伝わる壁画(粟島)

祈る人々に、狩猟をする集団。彼らが生活のお手本としてきたアリや、恵みの雨を象徴するクジャクなど生き物の姿もある。自然と調和した人間の暮らしが生き生きと浮かび上がる。さらに洞窟中央では日本の若手作家、大小島真木(おおこじままき)によるクジラの骨格をかたどった作品が存在感を放つ。

■「生命の循環」表現

大小島は同芸術家村で、クジラをモチーフにした作品を島民とともに6体制作した。海洋調査船に乗り、命絶えたクジラを様々な生き物が糧としている様子を見たことをきっかけに手掛け始めたシリーズだ。表現するのは「生命の循環」。国境だけでなく、海と陸も越えたコラボレーションは、持続可能な理想の地球を壮大に描き出している。

粟島では、ユニークなベトナムの作家にも注目だ。ディン・Q・レは島に多い空き家に着目し「ナイト&デイ(人生は続く)」という作品を作った。誰も住まない家の4カ所に付けた監視カメラのリアルタイム映像と、前の晩の映像を同時に流す。思わず時間を忘れ見入ってしまう。

リチャード・ストライトマター・トランは作品名に「ヒキコモリ」という日本語を付けた。引きこもりの子を親が殺害する事件などを受け、この言葉が深く印象に残ったという。海沿いの小屋に、外をのぞける潜望鏡型のカメラを設置。外から見ると、こま犬のようでかわいらしいが、作品を通じ「外の世界に関心を持ちながら、多くの人が苦しんでいる状況を理解してほしい」と力を込める。

ピナリー・サンピタック「笠島―黒と赤の家」(本島)

ピナリー・サンピタック「笠島―黒と赤の家」(本島)

このほか、戦国時代に水軍の本拠地だった本島(同県丸亀市)では、タイのピナリー・サンピタックが日本とタイの工芸品を融合させた作品を展開。除虫菊の栽培で栄えた高見島(同県多度津町)では、若手作家たちが、それぞれの手法と視点を生かし島の歴史と記憶を深掘りした。

3年に1度の瀬戸芸を締めくくる秋会期は11月4日まで。瀬戸内海の小さな島々が、広い世界とつながる。アートの秋は、その力をじっくり感じたい。

(西原幹喜氏)